私の一冊――『獣儀式』

 
G・A・ロメロ監督の『ゾンビ』にインスパ イアされたとおぼしき友成純一の『獣 儀式』は、 日本の小説史上未曾有の一大スプラッター・ノヴェルである。
 
《マドンナメイト》なるメディアミックス型のアダルト文庫から刊行されていたこの怪作と、 僕が出 会った理由についてはもちろん、当時の僕が健康な男子高校生であったという点から推して知るべし。ただ、友成純一と いう名前は異能のホラー映画評論家として知っていたから、未必の故意はあったかもしれない。
 いずれにせよ、SM雑誌からさえ忌避されたという友成作品は、到底その方面の実用に益するような生易しい代物ではなかった。
 突如、冥土から現世に溢れ出た“鬼”の群れによって文明は崩壊。環境の違いに戸惑いながらも、自らの職務に忠実な鬼たちは人間を捕まえては、ひたすらに 責め苦を与え続ける。
 冥土と現世の境がなくなったため、死ぬことも叶わず苦痛にのたうちまわる人間たち――。その尊厳はいとも無造作に剥ぎ取られ、単なる解体作業の対象と化 す。延々と続く人体破壊描写。
 並みの神経なら耐え難いに違いないその暗い情熱はしかし、人間という存在に苛立っていた当時の僕にとっては極めて親しいものだった。僕は貪るように、友 成作品に読み耽ることになる。
 その後大学で現代日本文学を専攻した僕は、卒業論文のテーマに友成純一を選んだ。
 ちなみに、やはり評論家として現在活躍中の
日下三蔵君がこのゼミの同期で、今日泊亜蘭論を提出したのだから無茶苦茶なゼミもあったものだ。
 結局この卒論がきっかけで、変な奴がいると目を留めてくださった先輩の
縄田一男氏と親しく させて いただくようになり、その紹介でこの業界に足を踏み入れることになったのだから、『獣儀式』 が 僕の人 生を変えたのかもしれない。
 う〜む、業が深い。


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「小説宝石」の「私の一冊」というリレー・コラムに寄稿したもの(だったと思う。今、 掲載紙が見つからん)。
 まあ、こういうことです。


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